
- ●次代へのバトンを託されて
終わってからかなり長い時間(のように私には思えるのだが、そうでない人もいるかもしれない)が経った戦争を私は間接的にしか知らない。その戦争を歌として表現することは、自分の生き方を問われているようで逡巡した。
小学生のときから「アンネの日記」を読み、「ビルマの竪琴」が大好きで、主人公の水島上等兵のような生き方に憧れていた。
反発したこともあった。中学一年の国語の時間に、教師が持って来た原爆の悲惨な写真を見せられ、顔を背けた。
けれど、歴史の悲惨の陰で多くの人々が言葉にできなかった思いに耳を傾け、伝えていくことが、神様が自分に与えてくれた役割なのだと、ずっと思っていたような気がする。
戦争を詠んだ歌は何回もつくっては削った。それも自分の考え、あるいは思いを深めていくには意味のある過程だったと思う。そのことによって、普段は忘れがちな核心にふれることができたのだから│。
受け継いだバトン
それはとてつもなく重い
バトンかもしれない
けれど受け取ったら
全力で走らずにはいられない
ゴールがどこにあるかさえ
定かではないけれど
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屋代陽子さんのプロフィール
小学校3年で初めて知人に贈った時から、今でもずっと詩を書いている。中学から短歌を始めた。21歳の誕生日の前日、五行歌を創始した草壁焔太氏の五行歌集「心の果て」に出会い感動、手紙を書いた。五行歌は心の中に浮かんだ言葉がそのまま作品になるという。五行歌界では若年だが、「五行歌の会」創設以来の同人というキャリアを含め、五行歌の次代を担う期待のひとり。
